経営理念について

経営理念について

経営理念を作成したいと考えている方に参考になるように、経営理念について記載しました。経営理念とは何なのか、経営理念は企業にとって必要なのか、経営理念の備えるべき要件は何か等についての考察です。参考にしていただければと思います。 

経営の神様と言われた松下幸之助氏は以下のように経営理念について語っています。「経営者の資質として経営理念を持つことが一番大切である。企業は存在することが社会にとって有益なのかどうかを世間大衆から問われていますが、それに答えるのも経営理念です。つまり、経営者はほかから問われると問われざるとにかかわらず、この会社は何のために存在しているのか、そしてこの会社をどういう方向に進め、どのような姿にしていくのかという企業の基本のあり方について、みずからに問い、みずから答えるものをもたなくてはならない。いいかえれば、確固たる経営理念をもたなくてはならないということです。」「事業経営を進めるうえで一番根底にあるのは、経営理念を確立することである。正しい経営理念が根底にあってこそ、力強い経営が可能になり、人や技術や資金といった経営に不可欠な要素が、真に生かされることになる、いわば経営に魂が入ることになる。」 
松下幸之助が言うように、経営理念は、企業の使命、存在価値、自社の特異性を示したものであり、企業のミッションステートメント(使命書)とも言えるものです。

ミッションの必要性 

松下幸之助氏が言うように経営理念(企業のミッション)はなぜ必要なのでしょうか。ここでは、企業のミッション(使命)の必要性について考えていきたいと思います。

企業の経営に魂が入る

 正しい経営理念が見つかることによって、松下幸之助が言うように、企業の「経営に魂が入る」ことになります。正しい経営理念が根底にあると、企業の存在意義が明確になり、経営者と従業員が喜び、・感動・生きがいを感じて仕事をすることができるようになります。その結果、力強い経営が可能になり、人や技術や資金といった経営に不可欠な要素が、真に生かされることになるのです。

経営者の意思決定の指針となる

 ミッションとしての経営理念は、経営者の意思決定の指針として必要です。経営者は激しく変化する経営環境の中で、様々な経営上の判断をしていかなければなりません。その意思決定を行う上での最大の指針となるのが経営理念です。経営理念は、企業の方向性を示すものであり、企業文化を形成し、社風も経営理念を中心として形成されていきます。したがって、様々な経営上の意思決定を行う上でも経営理念が指針になっていくのです。経営理念を指針として、経営上の意思決定を行うことで、企業を誤った方向へ行かないようにすることができるのです。従業員の行動指針となる。

経営理念は、経営者が企業としてどのようなサービスを提供したいか。お客様に何を伝えたいのかを明確にするためのものでもあります。もちろん、その内容には企業の社会的使命が含まれていなければなりません。経営者がお客様にこのようなサービスを提供してお客様を感動させたい。このような商品を買ってもらい喜んでもらいたいということを明確して、従業員に伝えなければ、従業員も企業が何をお客様に提供したいかを理解することができないので、自ら率先して行動することができません。ですから経営理念は、企業の方針を従業員に伝える意味でも重要な意味があります。経営者は企業の方針を明確にする必要があります。そうしないと、従業員がどのように行動していいのかの基準が分からないため、正確な判断をすることができません。場合によっては、常に経営者に聞かなければならないという結果になってしまいます。これは、いいことではありません。 

松下電器産業の経営理念

経営理念の具体例をいくつか出した方が分かりやすいと思うので、有名企業の経営理念を参考にあげてみたいと思います。まずは、松下電器産業です。松下電器の創業は、大正7年3月7日ですが、松下幸之助は「必要なものを供給して、みんなの生活を豊かにするという尊い使命がある。」という企業の使命を知った昭和7年5月5日を松下電器の真の創業記念日とし、全員を集めて、「きょうからは、松下電器は貧乏を征服し、物心満ち満ちた世の中にするという使命を感じて仕事をやっていくのだ。」と語ったそうです。

綱領
産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す。

信条
向上発展は、各員の和親協力を得るに非ざれば得難し、各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること。

松下電器の遵奉すべき精神

①産業報国の精神
  産業報国は当社綱領に示す処にして、我等産業人たるものは本精神を第一義とせざるべからず

②公明正大の精神
  公明正大は人間処世の大本にして、如何に学識才能を有するも此の精神なきものは以って範とするに足らず。

③和親一致の精神
  和親一致は既に当社信条に掲ぐる処、個々に如何なる優秀の人材を聚むるも、此の精神に欠くるあらば、所謂烏合の衆にして何等の力なし。

④力闘向上の精神
  我ら使命の達成には徹底的力闘こそ唯一の要諦にして、真の平和も向上も此の精神なくては得られざるべし。

⑤礼節謙譲の精神
  人にして礼節を紊り謙譲の心なくんば社会の秩序は整はざるべし。正しき礼儀と謙譲の徳の存する処、社会を情操的に美化せしめ、以て潤ひある人生を現出し得るものなり

⑥順応同化の精神
  進歩発達は自然の摂理に順応同化するにあらざれば得難し。社会の大勢に即せず人為に偏する如きにては決して成功は望み得ざるべし。

⑦感謝報恩の精神
  感謝報恩の念は吾人に無限の悦びと活力を与ふるものにして此の念深き処如何なる艱難をも克服するを得。真の幸福を招来する根源となりうるものなり。 

本田技研工業の経営理念

本田技研工業の経営理念は、本田宗一郎のものづくりへの情熱とホンダという企業の自由な社風が感じられるものです。

基本理念
   1.人間尊重
   2.三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)

社是
   「わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす」

行動指針
   ・常に夢と若さを保つこと
   ・理論とアイデアと時間を尊重すること
   ・仕事を愛し職場を明るくすること
   ・調和のとれた仕事の流れを作り上げること
   ・不断の研究と努力を忘れないこと 

帝国ホテルの経営理念 

帝国ホテルの行動指針は、サービス業が提供すべき内容を考える上でとても参考になるのではないでしょうか。

理念

 帝国ホテルは、創業の精神を継ぐ日本の代表ホテルであり、国際的ベストホテルを目指す企業として、最も優れたサービスと商品を提供することにより、国際社会の発展と人々の豊かでゆとりある生活と文化の向上に貢献する。

行動指針

 一、私たちは、その伝統を十分認識し、お客様の要請を発想の原点として、提供する総てのサービス、技術の向上改善に徹し、新しい価値の創造に努める。

 一、私たちは創意工夫と挑戦の精神を尊重し、かつ、協調と調和の態度を貫くことにより総合力の向上を追求する。

 一、ホテル業が、人を原点とすることを正しく理解し、規範たるホテル十則の導く行動に徹する。

帝国ホテル十則

 一、親切、丁寧、迅速(この三者は古くて新しい私共のモットーであります。)

 一、協同(各従業員は所属係の一員であると同時にホテル全体の一員であります。和衷、協同もって完全なるサービスに専念してください。)

 一、礼儀(礼儀は心の現われ、ホテルの品位です。お客様にはもとより、お互い礼儀正しくしてください。)

 一、保健(各自衛生を守り健康増進に努めてください。)

 一、清潔(ホテルの生命であります。館内は勿論、自己身辺の清浄に心掛けてください。)

 一、節約(一枚の紙といえども粗略にしてはなりません。私用に供することは絶対に禁じてください。)

 一、研究(各自受持の仕事は勿論、お客さまの趣味、嗜好まで研究してください。)

 一、記憶(お客様のお顔とお名前を努めて速かに覚えてください。)

 一、敬愼(お客様の面前でひそひそ話やくすくす笑いをしたり、身装を凝視することは慎んでください。)

 一、感謝(いつも「ありがとうございます」という感謝の言葉を忘れないでください。)

ミッションの備えるべき要件について 

企業の経営理念が持つべき内容が分かると、自社の経営理念について考えやすくなると思います。そこで、これから、ミッションとしての経営理念の備えるべき要件について整理していこうと思います。

社会的使命と感動

 松下幸之助が言うように、経営理念は企業の使命書であるべきで、企業が社会に対してどのような貢献をしていくことができるのかを含んだものであるべきです。たとえば、飲食店ならば、「おいしい料理と丁寧なもてなしで、お客様が感動できる時間を提供することを私たち企業の使命にしていこう。」といった内容です。
 また、経営理念は企業の使命書ですが、同時にそれは感動が伴うものであるべきだと思います。自分たちの仕事で本当に社会に貢献できると思えば必ず感動が伴うはずだと思います。感動が伴うものであれば、それが、従業員やお客様にも伝わっていくものだと思います。そういった内的な側面もとても大切です。

経営者が心から思い、それに基づいて行動しているか。

 経営理念は経営者が心からそれが重要であると思い、それに基づいて行動しているものでなければなりません。そうでなければ、経営理念は、ただのお飾りになってしまい、企業にとってプラスになるどころか、マイナスの効果をもたらしてしまいます。心に思わないことを経営理念にしてしまえば、従業員が本当は企業が何を提供したいのか悩んでしまうでしょうし、経営者が経営理念に基づいて行動しなければ、経営者の行動が言行不一致のものに映ってしまい、従業員の尊敬を受けることができなくなってしまいます。したがって、経営理念は、経営者が心からそう思い、それに基づいて行動しているものでなければいけません。そうでなければ、経営理念はない方がいいということになります。

お客様が共感できるか

 経営理念はお客様が共感できるものでなければなりません。商品を購入したり、サービスの提供を受けるのはお客様です。受け入れる側が納得できないような経営理念では、企業の存在自体が危ういでしょう。経営理念は、企業の存在意義や社会的使命を包含したものです。その社会的使命や存在意義をお客様が受け入れることができなければ、その企業は存在すべきではないと言うことになってしまうと思います。

従業員が共感できるか

 経営理念は、お客様が共感できるものであるとともに、従業員にも共感できるものでなければなりません。経営者は、一人では事業を行うことができません。当然のことですが、従業員の協力を得て、事業を成功させていかなければなりません。経営理念は、企業の使命書であり、その使命感を従業員と経営者が共有し一つになることができれば、一体感のあるすばらしい企業ができるように思います。

従業員の行動指針となるものか

 経営理念は、従業員の行動指針となるものでなければなりません。企業が有機的に一体となって躍動的に機能するには、企業の経営方針を従業員が十分に理解し、従業員が主体的に行動しなければなりません。そのためには、従業員の行動指針となるものが必要ですが、それが経営理念なのです。経営理念が企業の社会的使命を示し、企業の行動指針を示すものであるならば、従業員はその内容を十分に理解すれば、それを基準に行動することができ、経営者も権限の委譲を行いやすくなります。したがって、経営理念は、従業員の行動指針になる内容を含むものであるべきです。

経営理念の要件のまとめ

   ①社会的使命が含まれていて、感動できる内容である。
   ②経営者が心から思い、それに基づいて行動しているものか。
   ③お客様が共感でき、受け入れることができる。
   ④従業員が共感でき、受け入れることができる。
   ⑤従業員の行動指針となるものである。