売上だけを追求するとなぜ失敗するか

売上だけを追求しすぎると失敗するのはなぜなのか

売上だけを多くすることを目標にして経営をしていて、どんどん会社の業績が悪くしてしまう経営者の方をよく見かけます。売上が上がっているのだからいいじゃないか。何が悪いんだと思うかもしれませんが、儲けを意識しないで売り上げだけを伸ばそうとすると、儲からない商品ばかり売れてしまうことが多いのです。お客さんにとって、割安に見える商品の売り上げが伸びていくのはごく自然なことです。でも、企業にとって赤字になってしまうのでは意味がありません。
では、どうしたらよいのでしょうか。この問題を解決する糸口は、商品ごとの儲けに対する意識を持つことなのです。(建設業や請負業なら工事ごとの儲けに対する意識を持つことです。)売り上げだけを伸ばそうとするのではなく、利益を伸ばそうとするのです。当り前のことだと思うかもしれませんが、それができていなくて赤字になっていることがよくあるのです。この意識の持ち方しだいで、利益が出たり出なかったりするのです。経営者の発想しだいで、事業が良くなったり、悪くなったりします。
 また、営業の評価の仕方でも、売り上げのみを評価の基準にすると、売上を最高に上げている営業マンが実は企業に一番赤字をもたらしていたなどという結果をもたらしたりします。売上だけが評価の基準になっているため、儲けが少ない商品ばかり売っていたり、返品がとても多かったり、売掛金の回収ができそうもない相手先に売っていたりして、実は売上を最高に上げていた営業マンが、事業にとても悪い影響を与えていたりするのです。
営業の評価では、利益と売掛金の回収を評価の基準にするべきなのです。売上至上主義は弊害の方が多かったりするのです。

原価意識

私の会計事務所の顧問先でも、今まで工事(商品)ごとの儲けについて意識しないで経営を行ってきた企業が、工事(商品)ごとの儲けについて意識をもって経営を行っただけで、すぐに黒字に転換したりしました。工事ごとの利益を意識して、利益の出ない仕事は断るように受注方針を変更したことで、赤字だった経営が黒字になったのです。なんでもきた仕事は受けてしまうではいけないのです。仕事が少ない時は、固定費を回収するためにあえて儲からない仕事を受けることもあるかもしれませんが、通常の場合には、工事ごとの儲けについて意識して、一定の利益率の取れない工事の受注はしないという経営判断の基準が必要なのです。企業は、人、物、金という経営資源を持っていますが、経営資源は有限ですから儲からないところに経営資源が使われてしまっていると、利益のでる仕事が来たときにそれを受けることができないという場合もでてきます。企業が持っている経営資源(人、物、金)で売り上げることのできる金額にも限界があります。そうすると、その経営資源をより利益の出る部分に割り振っていくことが必要になりますが、それをするには、ある程度細かい管理をしなければならないことになるのです。
 たとえば、建設業などの場合、工事ごとの原価管理はとても重要です。赤字の工事を請け負ってしまった場合、今までの利益が一気に吹っ飛んでしまったりします。ですから、見積もりの精度を高め、原価を精度高く計算することが大切になります。それができれば、どのくらいの利益を乗せて仕事を受けるべきかをだすことができます。もし、見積もりの精度が低いと、受注した後赤字になってしまったり、割高の見積もりになってしまい受注できなかったりもします。また、相手から金額を指定された場合には、赤字になってしまう仕事や最低限の利益を確保できない工事については受注しない判断も必要となってきます。
 商品を販売している業種の場合でも、割安な値付けをした商品はやはりよく売れます。その商品の売り上げに占めるシェアーのみが拡大していったりします。しかし、その商品がいくら売れても利益にほとんど貢献しない場合には、値段の付け方が間違っていたと考えなければならない場合がでてきます。その商品を買うことで、ほかの商品を買ってもらうことが目的であればいいのでしょうが、他の商品が売れなくなってしまったのでは意味がありません。
 このことは、いろいろな事業を展開している企業体においては、事業ごとについても言えることです。利益のでる事業よりも、利益のでない事業の方が自然と売上が伸びていってしまったりするのです。先ほど説明したように、経営資源は有限ですから儲からない事業に経営資源(人、物、金)が使われてしまいキャパシティを超えてしまった場合、新たに人を雇ったり、資金を調達したり、設備を拡張しなければならなかったりします。今持っている経営資源で最大の利益を上げることを考えるべきなのに、追加の経営資源(人、物、金)を調達しなければならないのでは意味がありません。追加の運転資金や設備資金をまかなうために借入を行わなければならず、借入金だけが増えていくという結果になり、事業としては望ましい発展の仕方ではありません。儲かる事業を展開し、早期に借入金を返済し、最後は自己資金のみで事業を行うことができるようになるのが、最も理想とする事業の展開の仕方です。そのためには、商品ごとの儲けや事業ごとの損益を明確にして、儲かる事業を拡張していく努力が必要なのです。ですから、細かい管理が必要なのです。細かく管理をしないと儲からない事業のみが伸びていってしまったりするのです。

商品別損益計算、店舗別損益計算、部門別損益計算の必要性

今まで述べてきたように、細かい管理をせずに売り上げのみを追求すると、事業が赤字になってしまうことが多いのですが、それを克服するために何をするべきかというと、より細かい損益の管理をしていくしかないのです。そのためには、商品別損益計算、店舗別損益計算、部門別損益計算等の資料を作成し、経営者の意志決定に役立てていくしかないのです。そのような細かい管理をしながら、商品の値段が安すぎないのか、売れなくなった商品は販売中止にすべきではないかといった意志決定をしていくのです。細分化された資料がなければ、経営者も意志決定をすることができません。経営に有用な情報を安価に収集できるシステムを構築するのも経営者の重要な仕事の一つだと思います。

品揃えと利益について

ここで、品揃えと利益との関係についても考えてみたいと思います。品揃えが多いと売上は必ず伸びます。しかし、不思議なことに利益が減ってしまうこともあるのです。ここで、わかりやすい例として、花屋さんについて説明していこうと思います。花屋さんの場合、花の品揃えが多すぎると売上は伸びるのですが、利益が減るケースがでてくるのです。理由は在庫ロスが発生するからなのです。原価率(売上げに対する商品の原価の割合)が上がってしまうのです。花の場合、しおれてしまえば、売り物になりません。たくさん仕入れればお客様が選べる商品が増え、たくさん買ってもらったりできるかもしれませんが、残ってしまうと捨てなければならないのです。花屋さんの場合、売上が少ない方が利益が多かったりするのです。品揃えが少なすぎても、売り上げ自体が減ってしまうので利益が減ってしまうのですが、多すぎても減ってしまうのです。利益が最大になる品揃えがあるので、経営者は、利益が最大になる品揃えを追求することになります。(もちろん上手に売り切る努力も必要です。 )

どのような企業が良い企業なのか(資本利益率)

どのような企業が経営分析を行う場合、良い企業とされるのでしょうか。その事について、次に考えていこうと思います。企業は人・物・金といった経営資源を使って事業を展開していますが、その経営資源も無限ではありません。企業の経営資源は有限なのですから、その限られた経営資源の中で最大の利益を出すことが当然求められることになります。したがって、少ない資本で最大の利益を上げることができる事業が、最も良い事業であると経営分析では考えられています。そして、その判断の基準のことを資本利益率(営業利益÷総資本)と言っています。この資本利益率の大きい企業が資本を有効活用し、少ない資本で最大の利益を上げている企業であると判断されるのです。あなたが投資家だったとしても、投資した金額に対して最も利益を出して配当を最もくれる企業に投資したいと思うでしょう。そのような企業は株価も上がるのでキャピタルゲイン(株式譲渡益)も得ることができます。
 そして、この資本利益率は、資本回転率と売上高利益率に分解することができます。資本を効率に使用して利益を出していることの原因をさらに細かく分析していくのです。
まず、資本回転率ですが、資本回転率とは、売上高が資本に対して大きいのか小さいのかをみる比率です。資本が有効活用されて、少ない資本で最大の売上高を上げることができているかの指標です。この資本回転率の逆数は資本回転期間といい、実務では資本回転期間をさらに売掛債権回転期間、在庫回転期間などに細分化して、営業上の各資産が売上高に対して過剰になっていないのか、適正な金額であるのかを分析していきます。
 次に、売上高利益率ですが、売上高利益率は、営業利益の売上高に対する比率のことです。売上高利益率が高いということは、少ない売り上げでたくさんの利益を上げることができ、付加価値の高い商品を販売していることを意味することになります。この売上高利益率は、原価率、売上高販管費比率などに細分化され、売上高販管費比率はさらに売上高人件費率、売上高運賃費率などに細分化して、営業上の各費用が売上高に対して過剰になっていないのか、適正な金額であるのかの分析が行われます。(同業者の平均値との対比、予算との対比、自社の前年度との対比で検討します。)

         営業利益    売上高    営業利益
 資本利益率= ----- = ----- × -----
         総資本     総資本     売上高
               (資本回転率)(売上高利益率)

          総資本    売掛債権    在  庫
 資本回転期間=-------=-------+-------+…

         売上高(月額)  売上高(月額)  売上高(月額)
                (売掛債権回転期間)(在庫回転期間)

         営業利益     売上高 - 売上原価 - 販管費
 売上高利益率=------ = -----------------
         売上高            売上高

                  売上原価      販管費
          = 1 - ------ - ------
                  売上高       売上高
                 (原価率)  (売上高販管費率)

 ここで、簡単な質問をしてみたいと思います。1億円の売り上げで1,000万円の利益を上げている事業と3,000万円で1,000万円の利益を上げている事業とではどちらが良い事業であると考えますかという質問です。
 答えは、3,000万円で1,000万円の利益を上げている事業の方がよい事業です。今まで検討してきたとおり、少ない売り上げでたくさんの利益を上げることができるということは、原価・経費から見ても商品を高く売っているので、付加価値の高い商品を扱っている事業と考えることができるからです(売上高利益率=利益÷売上)。また、少ない売上げの方が売掛債権の発生が少ないので、資金を無駄に使わなくなり、資本効率も高くなるはずです。(資本回転率も良くなるはずです。)結果、3,000万円で1,000万円の利益を上げている事業の方が資本利益率が高い良い事業である可能性が高いはずです。 

生産性の高い事業を目指そう

事業の良い悪いを判断する基準には、少ない資本で最大の利益を出すという資本利益率という基準があり、それを分解すると資本回転率と売上高利益率になるということを説明しました.その判断基準も大切な基準ですが、もうひとつ事業の良し悪しを判断する基準として意識してほしい基準があります。それは、企業の生産性の基準であり、一人当たりの付加価値です。今からその内容について説明していきます。

付加価値とは何か。

 まず、付加価値について説明したいと思います。付加価値は企業が新たに生み出した価値であり、売上高から外部購入価値を差し引いた金額です。また、企業が生み出した付加価値は、従業員、出資者、賃貸人、企業自体等に分配されることになるので、付加価値は分配される内容の合計としても表現することができ、以下のような算式になります。(外部購入価値の内容は、仕入商品、材料費、外注工賃などになります。)

売上高 
外部購入価値  付加価値
 外部購入価値 人件費支払
利息 
地代
家賃 
租税
公課 
 配当内部
留保 

   付加価値=売上高-外部購入価値
         =売上高-(仕入商品+材料費+外注工賃+消耗品費など)
         =人件費+支払利息+地代家賃+租税公課+配当金
           +内部留保(減価償却+税引後利益-配当金)

なぜ、労働生産性が重要か

 付加価値が理解できたところで、次に労働生産性について考えていきましょう。労働生産性は、人員当たりの生産効率の事であり、労働生産性の重要な指標が従業員一人当たりの付加価値です。この一人当たりの付加価値が多いということは、従業員に給与を払う原資が多いということであり、企業に関わる様々な分配先に対して、余裕のある分配ができることを意味しているのです。ですから、余裕のある企業を育てていくためにも、一人当たりの付加価値の高い企業を目指して行くことが望ましいと思います。

                付加価値
   一人当たりの付加価値= ------ 
                従業員数