インボイス制度での振込相当額の会計処理について

得意先(売上先)が振込手数料を引いて振り込んできた時の会計処理について

 得意先(売上先)が振込手数料を引いて振り込んできた場合、今までは支払手数料を自社が負担した形で会計処理をしてきた会社がほとんどではないかと思います。しかし、インボイス制度の下でこの会計処理を行った場合、得意先が振込手数料を立替処理したことになり、インボイス制度では仕入税額控除をするために適格請求書(インボイス)が必要なため、得意先に立替精算書と金融機関から受け取ったインボイスの交付を依頼しなければならなくなります。

 ここで、得意先に立替精算書と金融機関から受け取ったインボイスの交付を依頼しなくてすむ方法がないか検討したいと思います。得意先が振込手数料を引いて振り込んできた時に、振込手数料相当額を売上値引として処理する方法です。売上に係る対価の返還等を行っていることとなるので、原則として、売上先に対して適格返還請求書を交付する必要があるのですが、振込手数料相当額は1万円未満であるため、適格返還請求書の交付義務が免除されます。したがって、振込手数料相当額を売上値引として処理した場合には、得意先に立替精算書と金融機関から受け取ったインボイスの交付を依頼することも必要なく、適格返還請求書の発行も必要ないことになります。

 また、経理処理を支払手数料としつつ、消費税法上は売上に係る対価の返還等とする処理も認められることとなりましたが、この場合でも、売上に係る対価の返還等を行った場合の適用税率は、その基となる課税資産の譲渡等の適用税率になります。帳簿に売上に係る対価の返還等に係る事項を記載することも要件になるので注意が必要です。

 基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者は、少額特例(税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる。)が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間は適用できるので、振込手数料は税込1万円未満であるので、その期間については少額特例で対応することが考えられます。

仕入先に対する対応について

 次に、仕入先に対して振込手数料を引いて振り込んだ場合の対応について考えていこうと思います。国税庁のインボイスについてのQ&Aにも記載があるため、今後は振込手数料相当額を「売上値引」又は「売上」として処理する事業者が増えてくると思われます。この場合には、立替精算書と金融機関から受け取ったインボイスの交付の依頼をされることはありませんが、今まで通りに「支払手数料」で会計処理をしたうえで立替精算書と金融機関から受け取ったインボイスの交付の依頼をしてくる会社もでてくることが考えられるので、依頼があった仕入先に対しては、FAXやメール添付で立替精算書と金融機関から受け取ったインボイスの交付を行うことになります。その場合に備えて立替精算書のひな形を作成しておくといいと思います。また、この場合、引いて振り込んだ金額と振込手数料の金額が一致していなければならないので、今後控除する額と振込手数料との金額が一致しているかについては厳密に確認を行うことがよいと考えます。